「語彙の選択(下)」 随聞小話第055回 (ひまわり誌2026年8月号)
「鞦韆院落 夜沈沈」 蘇軾
前号冒頭の句〈ブランコに乗ってだんだん風になる〉は、たしか、小学生の作品だったと記憶しています。とても気持ちの良い句なのですが残念ながら失名してしまいました。注意したいことは、すなおな小学生なら「ブランコ」と片仮名で表記するのですね。私も時々志村喬よろしく公園で独り乗るのは「ブランコ」で「ふらここ」やマシテ「鞦韆」ではありません。
実際には皆同じものを指しているのですが、それぞれの名称にはその言葉が歴史的に背負っている「意味の世界」があります。鞦韆という言葉は中国渡りの言葉です。唐の玄宗皇帝の宮中遊びや「春宵一刻 値千金」で始まるので有名な蘇東坡の漢詩にも使用されています。冒頭はその漢詩の一節です。鞦韆が春の季語なのはそれに因みます。鞦韆は宮廷の美女たちの艶なる春の遊びというのが、ふわふわとただよっている言葉なので、ブランコとは感覚の違う世界をもっていることばですよね。「半仙戯」というのも同じムードの中の言葉で、もっと気分に即して表現した言葉のようです。
もうひとつ、ブランコにはポルトガル語が語源だという説もあるので興味はつきませんね。 (467)
