開くと現代の「興趣」があふれ出る句集。
柔らかい思い出や思いやりに彩られた言葉の塊が 無限の空間を飛び回っている、
そういう句集である。
モノになってモノと語り合う心ーーそれは現代の興趣である。
星々や宇宙の彼方に問いかける心ーーそれは現代の興趣である
人々の争いが起こらないように祈る心ーーそれは現代の興趣である。
人が老いることがかくも美しいことと気がつかせてくれる心ーーそれも現代の興趣である。
青虫の食べ終わらない後姿 (朋)
蛇寒い筈日々老いて眠い筈 (朋)
カマキリの初めましてという立ち方 (朋)
お久しぶり!と手を握ったわ過去の秋 (朋)
此の世から花の便りをどう出すか(露)
鷹化して鳩となるなら我は樹に (露)
あの人あの人あの人も居ず寒夕焼(水)
空気囲いの地球でこぼこ鳥渡る (蝶)
春寒き街を焼くとは人を焼く (蝶)
「私は」と書き恥ずかしや月は何処(蝶)
🌙 池田澄子『月と書く』、2023年6月7日、朔出版