本の紹介

つげ義春・大崎紀夫・北井一夫『つげ義春流れ雲旅』

 つげ 義春と聞くだけで興奮するファンもいるだろう。漫画雑誌『ガロ』を通じて60年代後半から1970年代前半に活躍。『ねじ式』『ゲンセンカン主人』『紅い花』などの名作を残した。『ねじ式』が表現した異様な空間の衝撃はすごかった。またキクチサヨコの切ないという不思議な言葉はいまだに脳の奥から時々ひびく。

 彼の作品は当時の読者に読み解く試みを誘発し漫画評論の発展のきっかけとなったと評価される。なんと2022年に日本芸術院会員となっている。ふーんと思う。つまりファンとしてはよろこんでいいのやら、悪いのやら。推薦理由は「人間存在の不条理や世界からの疎外を垣間見せる『文学的な』表現によって、自己表現としてマンガを捉える青年たちに絶大な影響を与えた」はそのとおりだからまあいいか。

 彼は寡作。全盛期の彼が当時朝日新聞社の記者だった大崎紀夫氏(俳人。『朝日俳句』の編集長を経て『ウエップ俳句通信』の編集長)や北井一夫氏(著名なカメラマン。当時のアサヒカメラの「村へ」「そして村へ」は人気連載だ)という豪華メンバーと「日本」を求め、というか温泉を求めてだよね、ての旅行記。1971年朝日ソノラマ初出で今年2023年に新装で再版された。つげ義春の世界プラスアルファがあの時代の魑魅魍魎の如く復活してくることウケアイ。三人のファンは必読。 ( 2023年1月 朝日新聞出版 2600円プラス税 )

 

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