蔵本芙美子

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西行忌猫の夜会があるらしい 錦野斌彦
西行の忌日は陰暦二月一五日。「願はくばー」の歌で知られるように望月のころと願っていたのでそうしているらしい。そんな月の光の下、猫が集まる夜会がどうやらあるらしい、との情報を作者はどこから得たのだろうか。錦野さんはきっと猫語が話せるのだ。
春の月しばらく眺め戸を閉める 西尾武義
意識しなかったがそういえば夜に戸を閉めるときはやはり空を眺めている。きれいな
春月にひとときを預けて、作者は何を思っていたのだろうか。何も思わなかったのかもしれない。きれいだなあとただ見とれている、そんなとても素敵な時間をこの方は持っておられる。
軽トラの群れなして来る農具市 山田百代
最近農具市はあまり見かけないが、農具市は農家にとっては大切でまた一つの楽しみでもあるのではないだろうか。昔小さな農具市で、背広まで売られていたのを見たことがある。農家の方だから軽トラで来るのだろうが、群れなして来るというその”大袈裟”表現がこの句のミソ。
砂浜にYの足形残り鴨 岸 杪
残る鴨とは、春になっても病気や傷ついたりして北方へ帰れない鴨を言う。そんな鴨が砂浜でYの字の足形をつけながら遊んでいる様子を思うと、なんとなくあわれを誘われる。
カップ一つレンジに回る花疲れ 萩原善恵
けだるさやあでやかさのある季語に、レンジでチンの句材を合わせたところがとてもおもしろい。
春満月うさぎが餅を搗くころに 小西千代子
うさぎが餅を搗くころ「に」で放り出してあるので、そのあとの想像が広がる。
まだまだとトントン刻み蕗味噌に 山本洋子
もういいか、いやまだまだ、と頑張っている。きっとおいしい蕗味噌ができたことでしょう。蕗の香りも漂ってきます。