徳島吟行案内 井川町編 1  (岡本佳代子)

井川町  辻の町並み~茜染め体験~地福寺

 井川町辻は幕末から明治時代にかけて、刻み煙草産業と水運業で栄えた町である。平地の少ない狭い町ながら祖谷などの山間地と結ぶ道(祖谷街道)の発達、そして近くを流れる吉野川の水運の適地でもあったため自然発生的に商業地となった町である。特に刻み煙草産業は、周辺の山間地域で栽培された葉煙草が辻の町に運ばれ、刻み煙草として製品化され広く販売されたことで辻の町の一大産業となったのである。当時の繁栄の面影が残る町並みを歩くと、いろいろな発見ができるだろう。

 辻の町を訪れるには、JR徳島線の辻駅で下車、駅の前を走る国道を東(左)へ歩き、日の出橋を目指す。橋を渡ったところの信号を二つ渡り、小学校校舎に沿った道を進むと三好市井川支所に突き当たる。辻駅から徒歩一〇分である。車で訪れる場合は直接井川支所を目指すとよい。ここが辻の町並みに入る起点である。井川支所に入れば辻の町歩きマップを貰える。

 井川支所前に立つと、まず目に入るのは火灯窓を備えた天守のような建物である。近くに行って見ると外観は三階建てに見えるが、実は内部で四階建てになっているという不思議な建物である。白漆喰の壁に付けられた水切り瓦は、この辺りでは珍しく、高知の職人の手によるものだそうである。あちこちに遊び心を滲ませたこの建物は当時の町の繁栄を物語るもののひとつである。

 井川支所前の辻小学校の校門をくぐらせてもらい、すぐ右手にある「ふるさと探訪コース」の説明板を読むと、当時の町の繁栄の様子がよく分かる。

 辻小学校を出て右手に進むと町の中心の通りに出る。すぐ右手に蓬莱橋という橋がある。橋を渡って右手の道は池田町方面へ、左手の坂道は四国山地の山間地である井内地区、さらに峠を越えて祖谷地方へと続く道である。蓬莱橋付近は辻の町の玄関口として賑わった所である。井内や祖谷の豊かな山間地域で栽培され乾燥された葉煙草もこの道を運ばれて来たのである。

 蓬莱橋を折り返してくねくねと曲がったこの通りを歩いて行くと、道の両側には古い町家がたくさん残っている。うだつやなまこ壁、雲形のもちおくり、虫籠窓、出格子等古い建築様式を見ることができる。また、今では珍しい丸瓦葺きの屋根も見どころの一つである。道沿いの階段を登って今宮神社に行くと、丸瓦の家並が一望できる。

 町の中心部に「辻のいろり」という古民家を活用した交流施設がある。ここは毎週土曜日に開かれる朝市、子ども食堂、茜染めの体験など様々な活動の場となっている。特に、アカネという植物の根で染める日本古来の染色、茜染めは体験には訪れる人が多く人気である。(後述)

 古い木造建築の家々の中に一つ古い鉄筋コンクリートの頑丈そうな建物が目につく。旧四国銀行辻支店の建物である。昭和三十四年年の建築当時、井川町内では鉄筋コンクリートの建物は非常に珍しく、井川町辻に九件ほど指定されている国の登録有形文化財の一つである。その前にある「勇楼旅館」は現在辻で営業している唯一の旅館である。昭和三十年ころまで、この道筋には六軒ほどの旅館があったそうである。

 歩を進めていくと、程なく「四っ辻」に着く。旧町名の「辻町」の由来となった所で、蓬莱橋と並んで辻の町の玄関口として人の往来が盛んな所であった。左の坂道を下ってガードを潜れば吉野川が目の前に見えてくる。ここは「辻の浜」と言われ、橋が架かる昭和三十四年まで対岸との往来に使われた渡し場跡がある。陸路が発達しておらず物資の運搬が水運中心であったその昔には、川港として栄えたところでもある。

 時間と体力にゆとりがあれば、眺めの良い石光山穴薬師を訪ねるとよい。辻の浜から元の道に戻ってさらに東へと一〇〇メートルほど進んで、右側の細い坂道を登って行くと、山沿いの道に出る。その道を横切ってすぐ前の階段を登っていく。途中、左手に「地酒芳水」と書かれた煙突が見える。吉野川の伏流水を使って造られる三好市を代表する地酒の酒蔵である。春に行われる「四国酒祭り」では、蔵が開かれ多くの見学者が訪れる。

一三〇段ほどの階段を登りきると石光山穴薬師に到着である。ここは穴薬師寺という寺のあったところで、眺めがよく、桜の名所でもあり、町の人々に親しまれた場所である。町が繁栄の中にあった時代、町には俳句愛好家が多くこの寺でもよく句会が開かれていたそうで、「春風にふきだし笑ふ花もがな」という芭蕉の句碑も建てられている。辻町には「水石社」という俳句結社があり、近隣の町からも愛好家が集まってきていたという。ここからさらに上の段へ登っていくと、子安観音堂という銅版葺きの屋根の美しいお堂がある。ここからの眺望はまた格別である。眼下にゆったりと流れる吉野川、広がる平野、その向こうには讃岐山脈が見渡せる。

 ここから元の道を井川支所まで戻る。全行程およそ二時間のまち歩きである。

井川町には辻の町並みの他、山間部の井内地区へ足を延ばすと、平家伝説の伝わる「地福寺」がある。また、辻駅から井川支所への国道沿いにある「ふるさと交流センター」内には歴史資料館があり、地福寺に伝わる平家の赤旗や刻み煙草に関する資料なども観ることができる。

茜染め体験(井川茜保存会「茜の杜」)及び辻の町歩きガイドの

申し込みは三好市観光協会(℡〇八八三-七六-〇八七七)へ

“徳島吟行案内 井川町編 1  (岡本佳代子)” への 1 件のフィードバック

  1. 川口厚子 より:

    私は県南、阿南市那賀川町の生まれで、現在は徳島市内に住み、ほとんど県西部のことは知りませんし、土地勘もないですが、これを読めば行って、茜染めも体験したくなりますね!
    俳句との繋がりも古いようで、どうりでひまわり会員の方で西部の方に俳句の上手い方が多いのも納得です!佳代子さん、また案内して下さいね❗

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