ひまわり誌2月号から鑑賞(2025年)

蔵本芙美子さんから2月号の句の鑑賞の投稿がありました。

〇 ひょいと来てひょいと大根抜く男   米本知江

 「ひょいと」の副詞のリフレインが、一句にとぼけた滑稽味を出している。大根を抜くこの男の人までがなぜかとぼけた人のように思えて来て愉快。

〇 十二月八日川は静かに流れゆく   菖蒲星子

 十二月八日は太平洋戦争開戦日のこと。真珠湾攻撃から始まる。ゆえにこの季語では平らな海や静かな航などがよく詠まれているが、ここでは川の静かさに焦点を置いているのが眼目。川は私たちの生活に身近な景であって特別感はない。その日常の生活に影を落としてきた戦争のことを忘れずに、このようにいつまでも詠み続けていかなければならないと思う。

〇 回数券一枚残り年終わる   川口厚子

年が変われば使えないというものでもないのだけれど、気持ちとして始末というか区切りをつけて新年を迎えたかった、ということなのか。一枚残った回数券になにか整理がつかなかった思い。よくわかる気がする。たった一枚の回数券を詠んで、作者の引きずられるような、置き忘れてきたような思いが表現されている。

子狸の丸きお尻の走り去る   大西絵里子

 子供の狸に遭遇したのだろう。中七がいかにも可愛い。昨今は町中でも時々このような動物に出会うことがあり、俳人には嬉しいチャンスだが、狸や猿ならまだしも危険な獣などには気を付けましょう。

お祓いを上目づかいに七五三   藤村ひかり

 子の様子をよく捉えて詠まれたものと感心。足をもぞもぞさせながら「早く終わらないかなあ」と神主さんをそっと見ているのだろう。厳かな神事の雰囲気のなかで少し退屈し始めている子供の様子が、ほほえましく想像できる。この後はきっと七五三の飴をいただいてご機嫌は直ったかな。

大根とハワイ土産と提げてくる   大城京子

 なんともユーモラスな作品。でも差し上げる大根もちょうどあったので、このタイミングになっただけ。大根は重いけど、このような軽い味の句はいいですね。

掛大根越しの諍い若夫婦   豊川芳信

 農家の若い夫婦のちょっとした諍いを、あたたかく距離をおいて見ているのでしょう。掛大根越しが、若夫婦間なのか、若夫婦と作者の間なのか少し迷いましたが…。

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