随聞小話第20回

麦藁帽

  老人が被って麦藁帽子かな  今井杏太郎

 

麦藁帽子は被った途端に今までと違う世界へと私をいざなってくれる。

ゴッホは三十代半ばに何枚もの自画像を描いている。その中でも多いのが麦藁帽の自画像。あの顔はまだ若いのにやけに「老い」の顔に見える。ひょっとしたら麦藁帽というのは「老い」を装うための道具かもしれない。

こんな時にはいろいろなモノコトが頭の中をおとずれる。今井杏太郎の俳句がくるくると頭の中で回転し始めた。そうだ今井杏太郎も「老い」を演出していたのだよな。ただゴッホの「老い」は亡びに向かう暗い「老い」が漂っているが、杏太郎には「老い」を演出するための明るさが漂っているよな。

    その老人耳が大きく麦藁帽  冬扇 

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