句集を読む 大島英昭『人参の花』

  腰巻にある〈犬ふぐり元荒川に出て帰る〉という句にじんわりと感じ、じんじんと来る。

  犬ふぐり元荒川に出て帰る

「元荒川」という地名にまず心が騒ぐ。私は大阪生まれだが三代続いた江戸っ子だ。そのせいだろうか。

 当時は郷土の地理歴史は詳しく教えたものだ。小学校の社会の時間に東京の立体地図を作らされた。同時に東京の治水の話を聞き、荒川が、江戸時代に利根川から切り離されたことや、神田上水のこと、帝都建設のために荒川放水路が作られたこと等々いろいろ複雑だった治水工事のことを教わり、どこか脳の片隅で覚えている。その中に「元荒川」という名前があって鋏で地図に張り付けたのを思い出したのだ。実際には「元荒川」の流域は埼玉県なので私自身は実体験しているわけではないのだが人間の記憶など不思議なものだ、懐かしさを感じるのだ。

 「元荒川」流域は今は桜の名所が多く、珍しい生物ムサシトミヨやキタミソウの生息地だ。大島氏は埼玉人、「元荒川」までが散歩道なのだろう。イヌフグリの咲く川原まで出ると、散策は終わり、あとは帰路に就く。なにごとでもないと思う人にはなにごとでもない。しかし、私は下五の「帰る」という言葉とその行為に明るい「老い」の興趣を感じる。そういう人も多いと思う。

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大島英昭氏の第3句集には2015年以降の句が載せられている。

大島氏も加わっている俳句誌『棒』の同人には新しい興趣を追求する俳人が多い、それも日常の一見「只事」的とか「老い」を楽しんでいるかのような一種明るい虚無をたたえた「興趣」である。

  五月雨を馬穴の水に見てゐたる

  足早に蟻は日の斑をひとつ越え

  朝顔にいきなり雨がよこなぐり

  大根を一本抜いて戻りゆく

/ 大島英昭 句集『人参の花』、2023年6月30日、ウエップ (2700円+税)

“句集を読む 大島英昭『人参の花』” への 3 件のフィードバック

  1. 田村寿美 より:

    こんばんは😃🌃初めまして❗️

    1. Tohsen より:

      あちらこちら楽しんでください。コメントをそれぞれの記事でいただけると良いのですが。

  2. 田村寿美 より:

    ボニ踊りを拝読しました。今年のお盆、先祖の霊が蜻蛉に姿を代えて帰ってきたかもしれないと感じました。

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